テニスのウィンブルドン選手権では、選手が全員そろって全身白のを着用しています。同じユニフォームでこそないものの、ウェアも白、シューズも白、キャップも白、ヘッドバンドもリストバンドもソックスも白、シューズの裏さえも白。なぜこんなことになっているのか、ウィンブルドンの白の謎を解け。
ウィンブルドンの選手が全員白の理由
身もふたもなく言ってしまえば、
- ドレスコードだから
です。公式サイトの白ルールはこちら。(英語)
ウィンブルドンが全員に白を着用するように強制しているのです。このドレスコードは実に、1880年代に書かれ、今日まで続いているそうです。
公式サイトによると、”主に白predominately in white”ルールが1963年から適用され、1995年に”ほぼ完全に白almost entirely in white”ルールに変更になりました。2014年からは、ヘッドバンドやリストバンドなどのアクセサリーも白ルールに含まれるようになりました。
2023/6/30追記
2023年から、白ルールが少し緩和されました。
変更点は、女子の下着のパンツ。無地の中間色またはダークカラーのものの着用が認められることとなりました。下着ショートパンツやスカートより長くないものなら、中間色またはダークカラーのものの着用が着用できます。
Any undergarments that either are or can be visible during play (including due to perspiration) must also be completely white except for a single trim of colour no wider than one centimetre (10mm), except female players who are allowed to wear solid, mid/dark-coloured undershorts provided they are no longer than their shorts or skirt.
プレー中に見えたり、見える可能性のある(汗によるものも含む)下着は、幅1センチ(10ミリ)以内の色の縁取り1本を除き、完全な白でなければならない、ただし、女子プレーヤーは、ショーツまたはスカートより長くないものであれば、 無地の中間色または抱ダークカラーのアンダーショーツを着用することができる。 ~公式サイトより
理由は、女子選手の生理の不安感に対応するためとのこと。生理であるなしにかかわらず、女子選手は色付きの下着を着用することができます。
なぜ白なの?
もともとの理由はひとつ。
- 汗が一番見えにくいから
今ではキャップなどのアクセサリーにも適用されていますが、もともとは、着衣、ウェアのルールでした。
テニス大会はその創世期、上流階級の社交の場でした。そのような場で、汗じみを見せることは、ふさわしくない、みっともない、見苦しいものだと考えられました。特に女性が汗をかいているところを見られるなんてありえない、ということで、女子選手を念頭に置いたものだったといいます。
汗じみが一番見えない色が白でした。また、白は光を反射し、一番涼しく着られる色、ということはほかの色に比べて汗もかきにくい色なのであり、白はいちばんふさわしい色であると考えられました。
最初の頃は、男子はコットン100のロングパンツ、女子はマキシ丈の長袖ドレスで試合をしていたそうで、そりゃあ汗もしみてくるでしょう。とはいえ、創世期のテニスは、今ほど激しい動きをするものではなくその服装でもプレーできるレベルだったということでもあります。
しかしながら、時間とともに、テニスのレベルは向上し、それらの服装はプレーに差し支えるようになってきます。
白であることは変わりないけれど、着衣の形は、徐々に変わり続けてきました。現在、ロングパンツやロングスカートを着用している選手は誰もいません。
着衣のクオリティも大きく変わりました。今では、汗じみに対応した生地素材がいろいろあります。
それでもなぜ白なのか。
それは、
- 伝統だから
です。伝統を変えないことがウィンブルドンにとっては、とても大事なことなのだそうです。
ウィンブルドンの主催者は、かつてこう言いました。
「白のドレスコードはファッションのためではなくテニスとテニス選手の価値を際立たせるため」
伝統を守ることは大きな価値をもたらすと考えられているのです。
形も、昔とはまるで変ったとはいえ、それは時間をかけて変わってきたもの。いくら動きやすくても、その時代に「奇抜」と感じられるものは厳禁でした。
1949年には、アメリカのモラン選手が腕を出し、短いスカートとその下にレース付きのブルマ着用して試合をしたところ、主催者側は、下品だと非難し、すぐに短いスカートを禁止しました。
今では、長いスカートで登場したら逆に驚きますよね。
1985年には、アメリカのアン・ホワイト選手が真っ白のキャットスーツでプレーして大注目されました。このときは相手選手が、あのへんな服装を禁止するようにと主催者にクレームしたそうです。
ウィンブルドンではありませんでしたが、セリーナ・ウィリアムズ選手が2018年の全仏オープンで黒いキャットスーツを着てその後すぐにキャットスーツ禁止となったことは記憶に新しいところです。もしかすると、キャットスーツが未来のテニスの標準ウェアになってたりして。
選手の服装は白であるだけでなく「ウィンブルドンにふさわしい品を保つこと」とされています。
ウィンブルドンという場に「ふさわしい」こと、「ちゃんとしてる」ことが、ウィンブルドンが大切にしている価値なのです。
というわけでまとめると、ウィンブルドンでみなが白を着用しなければならないのは、もともとは汗じみが目につかないようにするためであったが、今では伝統を守るためである。
白を着ないとどうなるの?
ドレスコードに違反していると、試合に出られません。
試合中に違反が見つかると、着替えさせられます。それはシューズの裏にも下着にも及びます。汗をかいて透けたり動いたとき見えてしまう下着も白じゃなければいけないと、ドレスコードにはきっちり書かれています。
なぜそんなに白に厳しいの?
ウィンブルドンのドレスコードがあまりにも厳しいことは、とても有名で、違反を指摘されたりしたら、さっそく世界のニュースになります。
そのたびに、何のためにこんなに厳しくするのか、と主催者は聞かれるわけですが、伝統を守るため的なお決まりの答えが返ってきます。そして前述したように、白のドレスコードはファッションのためではなくテニスとテニス選手の価値を際立たせるためと言っています。これってもしかして炎上商法?
いやいや、そういうお堅いところが、ウィンブルドンの大きなウリというかキャラというかなんですね。偏屈とも思えるこだわりがおもしろいというか、見過ごせないというか、注目してしまうというか。
厳しいのは、ドレスコードだけではありません。何から何までウィンブルドンはきっちり決まりがあって守ります。芝生の管理、温度も決まっているボールの管理、会計報告、選手のレベル分け待遇、観客のドレスコードなどなど、なんでも手を抜きません。2015年にはF1のハミルトン選手が、招待されたのにもかかわらず、ジャケットを着てなかったため、入れてもらえませんでした。
ウィンブルドンは、ウェブサイトも他のグランドスラムとはレベルが違う出来栄えです。
ウィンブルドンの行き過ぎるほどのこだわりと独自性は、ネット社会の現代にとてもあっているのではないかと思います。
まとめ
ウィンブルドンで選手が全員白を着ているのは、ウィンブルドンのドレスコードであるから。もともとは、見苦しいと考えられた汗じみが目立たないのが白であったからそう決められたのであるが、現在では守るべき伝統としての決まりである。
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