「プロ」とはもともと「職業にしている」という意味で、それで生計を立てている人のことです。テニスでは何をもってプロ選手とアマチュア選手を分けているのでしょう。明確な規定があるのでしょうか。テニス選手のプロとアマの違いの謎について迫ってみました。
テニスのプロ選手とアマチュア選手の違い
日本のテニスを統括しているのは、「日本テニス協会」です。そこでは、プロ選手についてどう定義しているのかを探してみました。
結論を先にいうと、テニス選手のプロとアマの違いは、
- プロフェッショナル登録(プロ登録)しているかどうか
です。
では、「プロ登録」とは何でしょう。
「選手登録細則」というドキュメントに次の記述がありました。
第6条(プロフェッショナル)
プロフェッショナルは、本協会の公式トーナメントで競技して金銭的・物質的利益を得ることができる
2 プロフェッショナル登録は、常務理事会の承認を要する。
jta-tennis.or.jp
というわけで、ごく簡単に言うと、日本テニス協会のプロとは
- テニス大会に出場して報酬を得る選手
のこと。ちなみに、生計を立てている、という表記はありません。
また、大前提として、プロでもアマチュアでも、日本テニス協会公認の大会に出場するには、日本テニス協会に「選手登録」をしなければなりません。
選手登録は、「一般選手」「プロフェッショナル選手」「ベテラン選手」などの種類に分かれていて、プロは「プロフェッショナル」に登録している選手のことです。登録は自己申告制で、プロ登録も例外ではありません。
では、プロフェッショナル選手に登録する条件とは?
テニスのプロフェッショナル選手登録の条件
詳細については、日本テニス協会の「プロフェッショナル登録基準」に明記されています。
その中の「プロ登録の対象」というところに注目してみました。
1.プロ活動に加盟所属する者
2.所属会社の契約が民法上の雇用契約によらず、請負契約による者
3.賞金・懸賞金など金銭的報酬を得るために競技する者
4.いかなる大会においても、市価5万円以上の商品または1日当たり2万円を超える経費を得た者、及び実質以上の旅費を得た者
5.商業上の表示物を衣服又は用具に付着して、金銭的利益を得た者。ー中略ー
6.国外にてプロ活動している日本国籍を保持し本協会ナショナルチーム選手として活動する者
というわけで、ざっくり言うと、
- 賞金をもらったりスポンサーがいる選手はみんなプロ登録だからね
ということになるでしょうか。
4の規定によれば、日当2万円で大会期間分を計算した額に移動費や宿泊費を合わせた分の額までは「経費」にあたり、その額まではプロ登録していなくても賞金として得られるということになります。それ以上の報酬を得たい場合にはプロ登録してね、ということになるでしょう。
選手登録には料金がかかり、支払わなければ登録抹消となります。2018年は1年間当たりプロなら1万円、アマチュアは3000円です。
また、国外の大会や国際大会に出場する場合には、日本テニス協会だけではなく、「国際テニス連盟」への選手登録が別途必要です。登録料も別料金。
プロテストはあるの?
テニスにプロテストはありません。
ただし前述の規則にある通り、プロ登録には、日本テニス協会の常任理事会の承認が必要です。
プロからアマチュアに戻れるの?
日本テニス協会の「プロフェッショナル登録基準」によると、
- 1回だけアマチュアに戻れる可能性がある
プロから一般への登録変更手続きは、1度だけ取ることができ、通常は変更申請後6か月の実績審査が必要です。また、この変更申請をした後に、前項の「プロ登録の対象」行為を行った場合には、登録抹消という厳しい処分が与えられることになっています。
テニスのプロ選手は実際、生計を立てられるの?
オンラインテニスによると、実際に生計を立てられるのは、
- 世界で男女各トップ200名くらいの選手だけ
であるそうです。
その他の選手は、家族のサポートやクラブチームのサポート、そして支援者からの寄付などで生計を立てているそうです。
国際テニス連盟の発表によると、2013年には、男子のプロ登録選手が8874名、うち3896名が年間獲得賞金0、女子は4862名のプロ登録選手中2212名が年間獲得賞金0、でした。男女とも4割以上のプロ選手が無賞金とは。
優勝すれば数億という賞金が贈られることもあり、スポンサー契約も派手という華やかなイメージのテニスですが、そのような報酬は一握りのトップ選手だけのものなのですね。
たとえばサッカーでは世界の上位300名の選手がその華やかな報酬を獲得していますから、それに比べるとテニスはだいぶ厳しい世界です。
2018年11月現在、日本選手で世界のトップ200(シングルス)に入っているのは、男子で7名、女子では5名です。
ところでアマチュアって?
ここまで、プロについての決まりを述べ、「アマチュア」という言葉は、プロの対義語として用いてきました。
というのも目にした資料の中に「アマチュア」という言葉が書かれたものがなかったのです。日本テニス協会の規定では「一般選手」という表現が、「アマチュア」にあたるものと考えられます。そしておそらく「ベテラン選手」も。
「アマチュア」という言葉の意味は「愛好家」です。語源は、ラテン語で「愛する」という意味のamareだそうです。
お金のためにではなく、好きだからそれを追求する人のこと。報酬の授受を否定するアマチュアリズムは、欧米の富裕層から生まれたある意味差別的な近代スポーツの精神でした。アマチュアリズムの精神を明文化したものが「アマチュア規定」です。対して、生計を立てる職業としてそれをする人たちを「プロ」と呼びました。
時代は変わり、アマチュア規定は、多くのスポーツから消えつつあります。とはいえ、「プロ転向」という言葉を使うわけであり、報酬についても決まりがあり、言葉自体を使わないとしても、プロとアマの境界がなくなったのではなく、あいまいになっているというか線引きの過渡期というのか。アマチュアが報酬を受け取ってはいけない理由もここにきてあるのかどうか。
とはいえ、現在のプロテニス選手は、報酬というよりも、要求される実力や社会的な責任や課される決まり事が圧倒的に大きくなることでしょう。そこが、プロとアマの一番の違いかもしれません。
というわけで、今のところ、テニスのアマチュアとはプロ登録していない選手のこと。
まとめ
テニスのプロ選手とアマチュア選手の違いは、日本の場合、日本テニス協会にプロ登録しているかどうか、である。プロ登録するとテニス選手として報酬を得ることができる。プロ登録は自己申請制で、プロテストなどはないが、日本テニス協会の承認は必要である。
おまけ
アメリカでは、大学スポーツがとても人気で、テニスもそのひとつです。大学でプレーしたい場合は、賞金を1万ドル+経費以上受け取ることができません。
しかしながら、大学スポーツの統括団体は、大学スポーツで大儲けしているそうで、大学生の選手たちは、たいへん不満なのだそうです。近年は学生選手たちが報酬を受け取れないのは違法だとして裁判を起こし、多少なりとも変更されたりしているそうです。
プロ・アマの違いは、各国、各スポーツの事情によって多様化していくのでしょうか、それともここでもまた欧米などのスポーツ強豪国のルールに世界が追随し世界共通のルールになるのでしょうか。
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